佐野史郎の演劇的人生


JIS企画「ラストワルツ」佐野、怒りの告発!

1999/8/16
GIF
★「ラストワルツ」より、教授役の佐野と教授宅に押しかけてくる夫人(鰐淵晴子)。
本多劇場での「ラストワルツ」を観た人が、明らかに日本人の設定なのに「トム兄さ ん」と呼んだりするのは、翻訳劇みたいでサムいというメールをくれてたね。

オレは小劇場からはじめて気がつきゃ25年も芝居やってんだけど、その間いろんな演劇界の流れというか、流行り廃りがあったわけだよ。19才の頃からシェイクスピアを、別にイギリス人の格好や衣装を着るわけじゃなくてGパンでやってたりね。日本人なんだから、ロミオとか呼んだら、よく考えりゃおかしいわけだ。

なんか、昔の日本語のロックは可能かみたいな話しだね。(笑)

そうそう。(笑)でも、エンケンみたいに自分のリズムでやればいいんだよ。
で、唐(十郎)さんなんかは自分の皮膚感覚に根ざした世界を持ちつつ、ちゃんとした演劇人だから、チェーホフとかシェイクスピアとか王道を分かったうえで、アンドレ・ブルトンと合体させたのがテントだったりするわけじゃない。目に見えるのは、満州だったりするんだけど。
だから、日本の演劇なのにリア王とか言うのは皮膚感覚的にはおかしいだろと思っていたけれど、そのうち、どうせ記号なんだから別にトムでもジョンでも関係ないだろうというところまで来ちゃったんだな。
今までやった「月ノ光」のプラハにしても、「チュニジアの歌姫」にしても、元のない翻訳劇みたいだったものね。ありもしない本の書評を書いたレムの「完全なる 真空」みたいなものだよね。

元絵のない贋作みたいだね。
お芝居の中に、イギリスの詩人のオーデンの話しや引用が出てくるけど、高校時代読んでたよね。

別に脚本・演出の竹内(銃一郎)さんと話しをしたわけじゃないんだよ。前回だとクレーがモチーフだったんだけど、オレも小さいころクレーが大好きだったものね。最後にかかるエンケン(遠藤賢司)だって、竹内さんが大好きだったからなんだよ。知らない人が見たら、オレが決めたと思うだろうけど、最初から竹内さんが決めてたんだ。そんな好みの部分も竹内さんと不思議と合うんだよね。

白塗りの化粧は、ヴィスコンティの「家族の肖像」とか思い浮かべたけど。

GIF
★「ラストワルツ」より、佐野とメグム役の広岡由里子。
ヴィスコンティの「ベニスに死す」の方だね。あれは死に化粧なんだって。だから、男はみんな白塗りをしなくちゃいけないんだけど、他の役者さんたちは嫌がて日に日に薄くなっていったな。結局、日常のナチュラルな空間ではないということを分かってほしいんだ。日本と言ってるだけで、通常の日本の空間かどうかは怪しいという。

ハイジャックの話しも出てくるけど、本当にこの間ハイジャックがあったりした。

ちょうど、稽古中の事件だったから驚いたね。(笑)
でも、昔は今回の芝居にあるように政治的なハイジャックだったのに、様変わりしたものだよね。打ち壊すべき現実も、変えるべき国家も歴然と存在していた以前に比べて、地盤がぐしゃぐしゃになっているわけだよね。
結局、竹内さんの「生きているのか、死んでいるのか、分からないだろう」というところの解釈の仕方だよね。燐光群の「漱石とヘルン」でいっしょにやった坂手洋二氏の「100年と一瞬はいっしょ」だというのとも繋がるけどね。それは、唐さんだって同じなんだけど、あとはどこから観るかの違いだね。

どういう違いなんだろう。

唐さんは這ってる。竹内さんは夢と現実を重ねあわせて透かして見ているし、坂手さんは俯瞰して構造として見ている。

携帯電話が小道具として使われたりするけど、本番中にお客さんの携帯が鳴ったりし たんだよね?

「チュニジアの歌姫」の時は、止めようとしたら自分だということが分かるから、自分じゃないとしらばっくれた人がいて、ずっと鳴ってたりした。メチャクチャだよ。テントだったら引きずりだしてるんだけどな。(笑)劇場だと、それで芝居がボロボロになりそうなんだよ。作品を放棄しなければならなくなる。
今回もいいところで、鳴らしてくれましたよ。あれほど、アナウンスで言ってるし、もう常識のはずなのに。まさに、機内に持ち込まれた包丁だよ。

劇場録画にも問題があったんだって?

これはちゃんと書いて欲しいんだけど、某衛星S局が稽古風景から、楽屋まで撮りたいということで了承してたんだ。本番も録画してたんだけど、公演中に撮影スタッフがずっと話しをしてるんだよね。

本番中に? それはひどいねー。

なんか、ガチャガチャ音がするなと思っていたらテープ取り替えてるんだけど、デリカシーなさすぎ! 本番中に出入りするのもおかまいなしなんだよ。上演中に客席で話し声がするんで誰が話してるんだろうと思ったら、その撮影スタッフが話してるんだものね。言語道断!!
お客サンでそういう人がいたなら、それでも我慢しなきゃいけない時もあるけど、あれでは、芝居に集中できないよ。今まで、何度も撮影クルーが入って収録してるけど、あんなに非常識なのははじめて。

珍しく怒りのモードに入りましたか。これは、告発だな。

GIF
★「ラストワルツ」より、佐野とハル役の中川安奈。
怒っちゃったねー。告発だよー。それに、誰かひとりが喋ってたんじゃなくて、全員がそうだったって聞いたからね。ひとりの問題じゃなくて、要はそういうチームなんだよ。でも、素人じゃないんだからね。
本番前に客席でその衛星S局の宣伝をしたり、どさくさにまぎれてコソ泥みたいなんだ。制作の人が受け付けで本番前チケット係でてんてこ舞いの時にちょっと耳打ちしたりして!
そんなの事前に言っとけよ! 思いつきか計画的か知らないけど、姑息だよなー。でも、そうじゃないって言うんだ。言い番組を作るためにって・・・素材が撮れりゃそれで良いって認めたくないんだろうな。だから、本人もホントニ良い番組のためにって思い込んでるんだ。
つまり、TVメディアに服従しろと・・・。オレはどのメディアにも首突っ込んでるから、どっちが偉いとか言うつもりもないし、思わないけど、今がどの場なのかということが分からない限り、ワイドショー同様、あらゆるこの世の現象はTVを通して観られるべきだという宗教戦争になりかねないね。冗談じゃない! 作品なんだ! 客入れの時から、ワルツの音楽流して演出は始まってるんだからナッ! 台無しだよ!!
楽屋風景を撮るというのもオレは了承はしてたんだけど他の役者サンたちの楽屋まで断りもなくVTR回すんだ。それがドキュメンタリーだって抜かしやがるんだ!ふざけるなっ! これは作品なんだ!・・という両者の見解の違いにもならないおそまつさで、なんか嫌な感じだった上に、本番で騒がれちゃあね。
そのうえあやまりにもこないんだ。翌日、ちゃんと皆の前で説明してくれといっておいたのに、「収録押しておりましてー」とかいって逃げやがるんだ! TVメディアには服従すべきだと、頭では思ってなくてもどっぷりつかり込んでるんだよ。放映してやるという態度を感じたね。こんなことがまかり通っていいわけがない! 主催者側はもっと作品に対して誇りをもって、いたずらにTVメディアに譲歩したらだめですよ!!

確かにたくさんの人に観てもらいたいだろうけど、録画されたものと劇場で観るものは違うものだからね。本来は収録用に舞台を作らなければならないぐらいだよね。

そうそう、全然違うものなんだよ。観てほしいのは実際の舞台なんだよ。
竹内さんも怒鳴りまくってたし、オレもどうしても許せなくて、これはなんか制裁処置をとらないと気が済まないね。だから、放送はしないでほしいということでケリをつけようと思ってるよ。
コックピットにハイジャックが入って来て、勝手に荒らされたわけじゃない。機内の安全を守るということは、お客さんにいい芝居だったと思ってもらうことだから、なんとかなんとか観られる舞台として保ったという感じだったな。それでも、俳優も観客も、創造性においてかなりなダメージを受けたことには違いないんだけどね。

それで、政治犯じゃないけど相手の意図が分かればいいけれども……

「オレも劇場中継をやってみたかった」とシミュレーションしているようなものだよ。(笑)

今回はギャグもあり、ちょっと鳥肌もののところもあり、かなりクオリティーが高いと思うんだけど。

その割りには、お客さんの入りがいまいちなんだよ。(笑)ひとり芝居(「マラカス」)で鍛えられたから、みんながいると救われるナー。自分が主張しなくても、相手にゆだねるっていうのは愛だよね。そんな愛と癒しと魂と肉体の救済の芝居なんだ。

他の人の台詞の時には気配を消してるものね。

休んでるんだよ。(笑)今回は、みんな自分が自分がと主張しないから良いメンバーだよ。これからは地方公演があるから、是非観に来てほしいな。