佐野史郎の音楽的生活

松本隆作詞活動30周年記念ライヴ

1999/12/3
11月9日は、松本隆さんの作詞活動30周年記念イヴェント「風待ミーティング」のライヴで、佐野くんも「ちぎれ雲」と「指切り」を唄い、そのあとの「風待パーティー」で松本さんとの対談があり、BSでもライヴの模様を交えた松本さんの2時間番組まで作られたんだよね。

当日、会場のON AIRには早めに入って、リハーサルをやったんだけど、生ギター3本でやったはっぴいえんどの未発表曲「ちぎれ雲」は、どうしてもエンケンとかニール・ヤングの影響が強いから、鈴木茂さんの元歌とはちょっと違ったアレンジになったな。それが自分のスタイルだというのが、だんだん分かってきたし。

「指切り」がよかったな。なんか声を張って唄いすぎているような気もしたけど。(笑)

ああ、あれはシュガー・ベイブの「指切り」山下達郎ヴァージョンが半分は入っていて、それで声も張り気味だし間奏のギターのカッティングもシュガー・ベイブのアレンジなんだよね。大瀧さんの原曲アレンジだとファルセットで音程をちゃんととらないといけないか ら、大変なのよ。
最後のリード・ギターのところは鈴木茂さんのリフをちゃんと取り入れて、本人の目の前で弾いているつもりなのに、音が小さくて全然聞えなかったらしいね。(笑)
ちょっとエフェクターのレヴェル調整を間違えたんだよね。でもNHKのプロデューサーの湊さんとかは、ちゃんと鈴木茂リフを弾いているのに気がついてくれたな。

鈴木さんとは初めてだったんだよね。

鈴木さんはリハーサルを2階の手すりのところで見ていて、「すみません、“ちぎれ雲”をやらせていただきます」って挨拶したら、「よかったよ!」って言われてうれしかったなー。本人直々だから、相当うれしかったなー。会ったのもはじめてだからね。
そしたら、松本さんが来て「茂、“風をあつめて”演らない?」って言うんだよね。それまでは、最後の「風のあつめて」に茂さんは入ってなかったんだね。そしたら、「うん、いいよ」って、その場で決まったんだよ。ああ、こんな感じなんだって、横にいてうれしかったな。

細野さんは?

大御所だよね。泰然自若としていて、ベースのチューニングもセッティングも髪の長いスタッフの人が全部やっていて、リハーサルもそのベースを肩にかけて演奏するだけだったね。

細野さんのあの力の抜け方はなんだろうね。ベースの持ち方からして自然体で、違うんだよね。ほとんど親指で脱力して弾くあの枯れ方はいいな。
はっぴいえんどの人たちはどうしてたのか、楽屋裏を聞きたいね。

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★細野、松本両氏とともに。
細野さんと松本さん、鈴木さんがひとつの楽屋なんだけど、鈴木さんは「本が読 みたい」って、違うところに場所をとってもらってた。静かにしてたいって、繊細な人なんだよ。

ほんと、やっぱり、3人だとすごい緊張状態なんだろうな 。

どうかね? ああゆう感じだったんだろうね、ずうっと。
楽屋で細野さんと松本さんといっしょに、サインをもらったりいっしょに写真を撮ってもらったりしたんだけど、ちょうどカーネーションが「春よ来い」のリハをやってるときで、それが聴こえてきたから細野さんが「ハードですなー」って言うんだよね。松本さんは「ブリティッシュ・ロックのような……」って言うし。(笑)
楽屋で3人でいたから、シーンとしててオレも緊張してるし、大笑いするわけにもいかないし、貴重な体験だったな。
そしたら、次の「12月の雨の日」の歌のところで急に音が小さくなって、細野さんが「おやっ? 急に静かになりましたなー」「……」って。あれが、一番おかしかったなー。
その後、鈴木茂さんが来て「あっ、そろった」と思ったら、鈴木さんは鞄を取りに来ただけですぐに出ていっちゃった。

それで、御3人と佐野という組み合わせの写真がないわけだ。

そうなんだよ。どういう関係なんだろうな、怖い話だな。

これで大滝さんまで来ていたら、誰もまとめられないよね 。
鈴木さんにはいつサインをもらったの?

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★4人のサインが入り完成した「風街ろまん」、細野、鈴木両氏とともに。
本番を見ているときに、「後でサインをしてもらえますか」って頼んだら、「ああ、今でもいいよ」って。これで4人全員のサインが集まり、スゴロクで言えばついに上がりだよね。最初になかなかお会いできない大滝さんにもらっていたのが良かったな。

鈴木さんのギターやエフェクターのチェックをしていたというのは?

9日に使っていたのは、ストラトキャスターにハムバッキングのマイクがさらにつけられているもので、エフェクターもわけがわからなかったなー。
ああゆう大きなイヴェントにミュージシャンとして出ることって少ないんだけど、ちゃんとチューニングや配線をやってくれる専属の人がいるんだね。いいなー、ミュージシャンはと思った。(笑)
いろんなバンドが出たから、ほかの人のエフェクターボードが気になって、気になって。なんでチューニングメーターが二つも必要なんだろうとか、良く分からないものがあったな。オレのエフェクターボードも研究に研究を重ねて、やっとで完成したけどね。

BSの松本さんの番組で10日の演奏を放送していて、鈴木さんが「砂の女」をやってたじゃない。ギターもハックルバック時代のオレンジ色のストラトを使ってたし、あれも良かったね。

あと、おもしろかったのは、松本さんのサウンド・チェックかな。「じゃあ、音お願いします」と言われて、普通なら強弱付けたり、コンビネーションで叩いたりするのに、バスドラからドン、ドン、次はスネアをタン、タンって、まるでタイムスリップのマキのサウンド・チェックみたいだった。(笑)
松本さんは「昔は、手数が多い、うるさいってよく怒られてたんだよね」って言ってたけどな。

そうだよ、そのオカズを聴きに行ったのにな。もっと叩いてほしかったね。

「あしたてんきになれ」のリハを聴いてて思ったんだけど、松本さんのスネアの音がはっぴいえんど時代と同じなんだよね。ヤマハのドラムセットとラディックのスネアを買ったらしいじゃない。
それで「風をあつめて」で細野、松本、鈴木と3人がそろったら、ちょっと鳥肌立っちゃったね。最初で最後だとは言ってたけど。

そのわりには、細野さんが松本さんに「いっしょに、バンドやんない?」って言ってたよね。

スピッツの草野正宗さんが「水中メガネ」や、原田真二さんの「タイムトラベル」とかをやったのが良かったね。

それが終わってから、「風待パーティー」があり、松本さんとの対談がありました。

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★ライヴのあとで開かれた「風待パーティー」で松本さんとの対談。
お宝音源大会になったけど、会場で会ったサエキけんぞうさんとか川村恭子といった人たちもはっぴいえんどのお宝音源をたくさん持ってるんだよね。「ちぎれ雲」もいろんな音源があるのが分かった。当時はっぴいえんどがバッキングをやっていた岡林信康さんがOKを出さないからか、あのころの音源がCD化されないみたいなんだ。まあ、オレはアナログで持ってるからいいんだけどね。〔自慢!)

今回のバッキングをやってくれたヒックスヴィルの人たちとも仲良くなったんだよね。

音楽の趣味もあってよかったな。来年は「ちぎれ雲」も含めてソロCDを作ったりしたいな。