映画人としての佐野史郎



『ゴジラ2000―ミレニアム―』

1999/7/15
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「ゴジラ2000」製作発表。
12月11日公開の今回の東宝映画「ゴジラ2000」の見どころというと?

今回は22作あるゴジラ作品の中でも、昭和29年の初代「ゴジラ」を踏襲してる。水爆実験で眠りから覚めた初代ゴジラはケロイドがあったわけだよね。これは戦後の日本の反戦・反核といった社会状況が背後にあったわけだけれども、それが45年たった現在ではどうなるかという話しだよね。
オレは昭和29年版で言うと、山根恭平博士(志村喬)と芹沢大助博士(平田昭彦)の中間なんだよね。

どっちにしたって、やりたかった役なんじゃないの。

そうなんだよ。(笑)
CCI(危機管理情報局)の科学者であるオレ(宮坂四郎)は、研究のためにゴジラを残したいという山根博士的な心情からゴジラを殺しに行った芹沢博士へと移行していく役で、ゴジラ予知ネット(GPN)の篠田雄二(村田雄浩)は山根博士から尾形秀人(宝田明)へと移行していくような役だね。それと体制側を代表する片桐光男(阿部寛)の三人が同窓生というところがバックにあると。
ゴジラというのは、オレは自然の象徴だと思っているし、もっと言えばアニミズムの神だよね。

まさにGOD(神)のZILLA(叫び)だものね。

人間が自然破壊をして、その自然が人間に対する復讐としての象徴がゴジラで、その自然からの復讐(ゴジラ)に対して、人間は防衛と言いながらゴジラを攻撃するというイタチごっこになるわけだよね。
原発を作ったりして環境破壊をしている人間に対する、自然の復讐劇だよね。でも、最初は科学者として、研究対象としてのゴジラは殺さないで調べたかったんだけど、どちらか決断しなければならないところで、体制側に行ってしまったんだ。まるで、現実のオレのようだな。芸術よりも経済を取るような。あはははは。(笑)
やっぱり、オレは電気のために原発を作ってしまうような人間なんだ。

何、自分ひとりで自戒の念にかられてるの? 

いやいや、いいんだけど。(笑)
でも、もともとはアングラ役者なんだけどね。

それと、この映画の関係は? 

あはははは、自分で分かりやすくしようと思って。(笑)
深海に謎の岩塊があって、調べてみると生命体ではないかということになり、そのエネルギーをクリーン・エネルギーとして使えないかということで、CCIで研究を進めていくと実はそれは宇宙怪獣だったんだ。
篠田が破壊神であるゴジラにシンパシーを感じていくのと同じように、宮坂も危険な宇宙怪獣(巨大UFO)に、未知のものに対する研究心やシンパシーを感じはじめていく。でも、巨大UFOは世界中のコンピュータに触手を伸ばしていって、狂わせたりする危なさを持ってるんだけどね。

45年前は原・水爆は異常なものだったけれども、いまや原発が当たり前になっているわけだよね。

どんどん、見えなくなったり、問題が複雑化してるよね。
それに、知の方向性が外界に向けられていったじゃない。宇宙とか、外界のことを知るベクトルで進んでいて、気がついたら環境という足元が破壊されていたという状況でしょ。それに、自分の内側の問題もないがしろにされてきたと思うんだよ。
その心と宇宙生命体(巨大UFO)がシンクロしたり、侵食されたりするという問題もこの映画にはあるんだ。

合理的で進歩的な精神にとっては、アニミスティックな神(ゴジラ)なんてお呼びで ないわけだよね。

宮坂はその1954年から1999年という45年間をなぞるように、大戸島のアニミスティックなゴジラ伝説から、芹沢博士的な合理的な解釈を経て、元に戻るのかどうかというところだね。
だから、製作意図はしかっりしてるよ。それは、キャスティングにも現れているし、プロデューサーの富山省吾さんはそれを意識しているね。それに、大河原孝夫監督とは、そこのところはよく話してるよ。

ゴジラとその宇宙生命体(巨大UFO)は人間にとって同じような象徴のような気がするんだけど、どうしてそのふたつが闘うのかな?

宇宙生命体はゴジラの持っている、何度でも蘇生できる細胞(オルガナイザーG1)がほしかったんだな。

ミニラとかはタマゴから産まれていたのに。

細胞の復元と固体形成の両方の機能を持ちあわせているんだ。でも、それも放射能によって、自己再生する細胞に変化したらしいんだけどね。

造型的には、今回のゴジラはどんな風に変わっているの?

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「ゴジラ2000」のゴジラ。
今回のゴジラの造型の若狭新一さんは「インスマスを覆う影」で、オレの魚人間の顔を作ってくれた人なんだよ。大きい背びれはジュラ紀のステゴザウルスみたいな剣竜をモデルしてるから、デフォルメしてファンタジックにしている感じはしないね。
中に入っている喜多川務さんも素晴らしいよ。

以前、ゴジラの中に入っていた薩摩剣八郎さんは、海外のマニアの間では神格化されてるみたいだものね。

ともかく、ゴジラで博士役というのは、これ以上ないよね。せっかくだから、平田さんや志村さんみたいなところは、ちょっと出していこうと思ってるんだけどね。
それに、昭和29年の「ゴジラ」でデビューした河内桃子さんの、最後の舞台JIS企画の「チュニジアの歌姫」でいっしょだったでしょ。その時にLDボックスの付録に付いていた復刻の台本にサインしてもらったりしたんだよ。そんなこともあって、亡くなった河内さんへのオマージュという部分もあるね。

アメリカ版の「GODZILLA」があったから、今回のゴジラがはじまったんでしょ。

そうそう、ああじゃないだろうというところだよね。
「ゴジラとは何か」という本が講談社から出ていて、その分析がなかなか分かりやすいね。ピーター・ミュソッフという人が書いてるんだけどね。