佐野史郎・文学館

幻想・怪奇文学入門

1997/10/1
高校時代に「吸血鬼同盟」を組んでいたぐらいだから(詳しくは角川書店から出版された佐野の自叙的エッセイ『こんなところで 僕は何をしてるんだろう』を参照)、まずは吸血鬼ものからいきましょうか。

入門書としてブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』(創元推理文庫)、レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』(創元推理文庫)、須永(朝彦)さんの『血のアラベスク』(ペヨトル工房)、種村(季弘)さんの『吸血鬼幻想』(河出文庫)あたりは啓蒙書としてはいりやすいじゃないかな。「幻想文学」の“吸血鬼文学館”でいろいろ調べてもらってもいいし。あとはメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』(創元推理文庫)なども基本ですね。
それにゴシック・ロマンス三部作、ホーレス・ウォルポールの『オトラント城綺譚』、ウィリアム・ベックフォードの『ヴァティック』、マシュー・グレゴリー・マンク・ルイスの『マンク』(国書刊行会)。

ゴシック・ロマンスはどうやって知ったんだろう。

ラヴクラフトの方が先にあって、雑誌「幻想と怪奇」を読んでラヴクラフト、ロード・ダンセイニを知ったんだよ。その「幻想と怪奇」で「ヴァティック」を翻訳連載していたから知ったんじゃないかな。

『マンク』もサドを読んでいるようで、すごかった。

あとは、日本ものだと夢野久作の『ドグラ・マグラ』(教養文庫)、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』(教養文庫)、久生十蘭の『魔都』(教養文庫)、中井英夫『虚無への供物』(講談社文庫)といった探偵小説ものだな。

まあ、よく言われる四冊ですが。

読んでおいて損はないでしょう。どれも大作だけどね。夢野久作だったら、ほんとうに好きなのは「氷の涯」だったりするし、他の人も短編でいいものがあったりするね。

あと日本では香山滋とか好きでしょう。

まず教養文庫で『オラン・ペンデクの復讐』を読んで虜になったんだ。『吸血鬼ドラキュラ』を読んだときと同じような昂揚感があったね。怪獣映画でモスラが登場したときのような、キングギドラが登場してきたときのような、「何だ、これは」っという感覚だよね。

実際に香山さんは「ゴジラ」を書いた人だからね。

ラヴクラフトと香山滋に関しては、オレはコレクターだな。

ラヴクラフトのお薦めは?

『ラヴクラフト全集5』(創元推理文庫)の「ダニッチの怪」、『ラヴクラフト全集2』の「クトゥルフの呼び声」、『ラヴクラフト全集1』の「インスマウスの影」は必須でしょう。

澁澤(龍彦)さんとかは。

澁澤さんの「犬狼都市」はもとになったマンディアルグの「ダイアモンド」より好きかもしれない。

まあどちらを先に読んだかにもよるんだろうけど、澁澤さんならやっぱり『高丘親王航海記』(文春文庫)ほど気持ちのいいものはないでしょう。

そうだね。あれはいいなあ。ルネ・ドーマルの『類推の山』(河出文庫)とかも気持ちいい。

逆に気持ちが悪いというと。

沼正三の『家畜人ヤプー』(角川文庫)はマゾヒズムを身体的にも精神的にも体現しているから必読でしょう。
あとは小さいころに読んだものではアンデルセンの「スズの兵隊」、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』、宮澤賢治かな。