橘井堂 佐野
2003年5月16日

第五回極東映画祭(1)
◆極東映画祭

photo★ウディネの「FAR EAST FILM 5」開場前で久し振りに石井輝男監督と。
佐野◆4月24日から5月1日まで、イタリアのウディネという街で「FAR EAST FILM 5」(第五回極東映画祭)というものがありまして、今回の特集は石井輝男監督で、60本余り上映されたなかの6本が石井作品。その石井監督が「史郎ちゃん、行かないかな?」とおっしゃってくださったらしく、ご招待いただいたんだよね。

―――そんなに有名な映画祭ではないの?

佐野◆まだ5回目だからね。以前は滝田洋二郎監督とか行ってらしたみたいだけど、報道で聞いたこともなかったし良く分らなかった。

―――欧米から極東という時、どこからが東アジアになるんだろう?

佐野◆インドが入ってないから、インド以東なんじゃないかな。タイ、マレーシア、シンガポールとかは入ってるし。
ただ、今回はSARSの問題があって、香港、台湾、中国は参加自粛。実際に現場では開会前に「なぜ東洋人を入れるんだ」と会場入り口でマスクを配ったりして拒否をする運動もあったみたい。
イタリアでTVを見ていると過剰なぐらいSARSをニュースで取り上げてるし、向こうから見ると一般の人にとっては、同じ島国だから台湾も日本も同じだろうというぐらいの認識じゃないのかな。
だから東洋人はみんな一緒で、全員SARSに罹ってるぐらいな勢いだよね。でも、映画祭は蓋を開けてみれば連日大入りで大盛況でした。映画ファンの情熱がそんな危惧を吹き飛ばしていた感じかな?

―――今回は石井輝男監督とあとは誰が?

photo★左は映画評論家マーク・シリングさん、平山秀幸監督夫妻、右は石井監督と通訳の川本女史。
佐野◆平山秀幸監督と俳優部はオレだけ。(笑)平山監督の「笑う蛙」の主演の長塚京三さんも参加予定があったようだけど、残念ながらスケジュールが合わなかったみたい。

―――乗り継ぎ、乗り継ぎで行ったんだよね。

佐野◆極東映画祭がコリアン・エアラインと提携してたから成田からソウルに行って、スイスのチューリッヒまで行き、そこからヴェネツィアに着いたの。そこにパウロという日本語のしゃべれる大学院生のスタッフが迎えに来てくれて、車で連れてってくれたんだけど、そこでやっとで映画祭をやるのがウディネというところだと分った。(笑)

―――みんな一人で大丈夫かと心配してたけど、行き先も知らずに行ったわけね。

佐野◆石井輝男特集をするぐらいだから、かなりマニアな、好きな人だけが集まる映画祭だと思ってたんだよ。もっとカルトな映画祭だと思ってたんだ。

―――規模は小さいだろうと。

佐野◆日本で言えば大きくても湯布院映画祭とか夕張映画祭といった地方の名のある映画祭くらいの規模だと思ってたんだよね。行ったことないからよくわからないんだけど……。(笑)
そしたら、けっこうりっぱな会場だし、華やかで侮れないんだよ。確かにヨーロッパ各地からの、日本&アジアオタク大集合みたいな部分もあったんだけどね。 ヨーロッパの人たちが、これほど東洋の映画に興味を持ってるんだと、はじめて知ったね。ラインナップを60年代のものから今のものまで新旧取り混ぜてあるし。英語字幕だから、まあ、そんなに英語できなくても、なんとか分るしね。
韓国や台湾の映画、面白かったよ。

―――佐野関連の映画というと、「ゲンセンカン主人」とかがかかったの?

佐野◆三池崇史監督の「桃源郷の人々」と「ゲンセンカン」。他の日本作品っていうと平山監督の「OUT」「笑う蛙」「ターン」とかホラーでは「ほの暗い水の底から」「呪怨」、あと「ピンポン」とか上映されて、あれこれ観たけど日本映画、けっこう面白かった。「ピンポン」とかバカウケしてたよ。
石井作品は「網走番外地」「東京ギャング対香港ギャング」「猟奇女犯罪史」「ポルノ時代劇・忘八武士道」「やさぐれ姐御伝・総括リンチ」「ゲンセンカン主人」「ねじ式」の7本かな……やっぱ、カルトだ。(笑)

―――誰がセレクションするんだろう?

佐野◆マーク・シリングさんという日本在住の映画評論家の選出、ずっとご一緒したけど、面白かった。そういう方が韓国とか、中国とか、各国にいるんだよね。

―――キュレーターみたいな人がいるわけだ。

佐野◆そうとう詳しい。
取材されてもずっと映画の話をしているわけだし、日本みたいに芸能系のレポータが訊くようなことは全然ないから、それだけでもう心地良いんだよね。
韓国の映画のスタッフの人たちもすごく気持ちのいい人たちで、良かった。
日本の映画を観ていて思ったのは、作風とか関係なく家庭崩壊が必ず描かれているところだね。子供と親、夫婦の関係がぎくしゃくしてるところが必ず登場する。石井監督のは別だけど。(笑)あとお金の話がしつこく出てくる。これが日本映画の特徴だと思った。病んでるなー。
台湾映画にはやたらと日本が出てくる。日本のTVが取材に来ているとか、日本のいい製品の真似ばかりするなとか、以前の日本が何でもアメリカナイズすればいいのかというのと同じ感じじゃないかな。
photo★石井監督と韓国の「PERFECT MATCH」の女性監督モウさんと。
韓国はハリウッド志向なのかな〜? ゴージャスでウイットに富んでるね。「シュリ」のような作品は観なかったけど、女性の生き方や結婚観のようなものが残ってる。韓国の「パーフェクト・マッチ」っていうラヴ・コメディとか、ハリウッドの焼き直しみたいな感じもあったけど、新人のモウ・ジ・ユン監督っていう女性の監督、初々しかったな。……トレンディ・ドラマ(死語か?)みたいではあるんだけどね。主演のシン・ユン・キュンっていう女優さん、カワイカッタなあ〜……と、ミーハー。すごく韓国で人気があって、ギャラが高いらしい。
しかし、やっぱり、まとめて観ると新鮮だな。イタリアで東洋の作品を観たというのも良かったんじゃないかな。日本映画が外国映画みたいに見えたりして……。映画は生き物だなと思ったよ。60年代の韓国のサスペンス映画とかもね、古いって言えばそうなんだけど、妙な迫力があるんだ。

―――映画祭というと、買い付けの場でもあるわけでしょ。

佐野◆コンペティションもないし、バイヤーが集まるマーケットとして機能してるかどうかは分らないけど、東洋の映画をヨーロッパに紹介する窓口としてはとても健全な場所だね。
これまでの何回かでかかってるかもしれないけど、北野武さんの映画がかかってないのが不思議なんだよね。

―――黒澤明、小津安二郎、溝口健二、とか出てきそうだけど、違うんだね。

佐野◆あくまでも現代の監督作品が基本なんだろうね。でも、雰囲気はカルトってわけでもB級ってわけでもないんだよ。確かにアカデミックな作品は少ないかもしれない。(笑)

―――パンフレットにある「FAR EAST NIGHT」というのは?

photo★通訳スタッフの大学院生パオロ君とヴェネツィアでピザをいただきました。
佐野◆毎日、違うレストランやバーでパーティーが行われて、そこに関係者や取材陣が集つまるんだよ。そうした手際がすごく良んだよね。地方の映画祭だけどイタリア政府がバックアップしてるらしいし、流石、映画の都イタリアだと思ったよ。
ピザにしてもパスタにしてもワインにしても本場のイタリア料理を堪能しました。それにプロシュート(生ハム)がどこでも安くて美味しかった(ご馳走になってばかりだったけど)。あれは美味いなー。パニーニもカリカリだったし。ニョッキも良かった。内陸だから魚料理は少なめだったけど、それでもね、何であんなにイタリア料理って美味しいんだろう?  中華や和食同様、飽きないね〜。

―――ああ、メモしてあるんだ。絵まで描いてある。

佐野◆こんなことはメモしておかないと忘れるからね。

―――ほとんど使えない情報だ。

佐野◆こんな時でないと使えない。(笑)
メモによると、キャステラーネという3センチくらいの大きさに巻いてある筋の入ったパスタが美味しかった。トマトソースで、バジリコ入りでパルメジアン・チーズがかかっている。
あと、アジーノという柔らかいチーズにマスタードが入っているものに、梨のコンフォートのような甘い蜜がかかっている。これも美味しかった。
それにモンタージオ。チーズをオーブンで焼いて、冷ましただけの煎餅のようなもの。これも美味かったすね。ビールのお供にピッタリよ!
極東映画祭、また呼んでくれないかなー。(笑)

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