橘井堂 佐野
2001年7月26日

佐野史郎とライスカレー
〈プロフィール〉
それは、1998年の12月、ギターのEBBY☆のところに一本の電話が入ったことから始まった。
EBBY☆は、「JAGATARA」のギタリストとして、その名を馳せた筋金入りだ。
「大きい音のロックバンドをやりたいんだ」
佐野史郎からの電話だった。
佐野はそれまでに10年以上続けていたバンド、「タイムスリップ」を実質、解散させて悶々としていた。
「タイムスリップ」は1984年に漫画家の夢野ワンダ、俳優の嶋田久作、唐十郎の劇団状況劇場の役者であり、実生活の伴侶でもある石川真希と佐野とで結成された。
結成当時、遠藤賢司氏に発掘されたことからもわかるように、彼の純音楽の精神と呼応し、言音一致の音楽を志していた佐野たちは、こう確認しあったという。
「小さな音のロックバンドをやろう」
小さな音のロックバンドのボリュームが絞り切られゼロになり、電源が落され、しばらくが経って、佐野が再びアンプの電源を入れようと思い立った時、EBBY☆のギターが聴こえてきたという。 遠藤賢司(エンケン)氏のLIVEで、かつて共演した時、彼らはエンケンと共に、ニール・ヤングの「ダウン・バイ・ザ・リバー」を演奏し、ギター・バトルを交わした。ベースはトーベン、ドラムにトシ。魂の音楽家たちの結集だ。その時、EBBY☆にはスティファン・スティルスの生霊が降り、佐野にニール・ヤングの魂が憑依したという。
しかし、EBBY☆と共に描いた「大きい音のロックバンド」結成に至るには、そう易々と事は進まなかった。
佐野の俳優の仕事のスケジュールもあったし、EBBY☆のギタリストや、プロデュース、アレンジャーとしての仕事との兼ね合いもあった。
が、何よりも、シンプルなロックバンドを思い描いていた佐野にしてみれば、ベースとドラムが思い浮ばなかった。
ニール・ヤングやルー・リードといった、本物のロック・ミュージシャンを解する人間が、どうしても必要だった。

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★左上・佐野、右上・ドラムのGRACE、左下・ギターのEBBY、右下・ベースのMARIRINE(アキタカ改め)。
しかし、ここでも再び、エンケン=遠藤賢司氏は彼らに力を与えた。
1999年の12月、恒例の「エンケン祭り」に、遠藤ミチロウ、大槻ケンヂ、みうらじゅん、原マスミ…等と共にステージ上にいた佐野は、ドラムのグレースと出会う。
グレースは、80年代に活躍した女性バンド「ジャコウネコ」の出身。
この日、エンケンは、オムライス姉妹として、ドラムにグレース、ベースに、かわいしのぶを引きつれていた。
そのリズム隊の力強さに、佐野はぶちのめされた。
グレースのドラムは、まるで、ジョン・ボーナムのようで、エンケンにぶつかっていっていた。
しかも、エンケンが永遠のライバルと公言してはばからない、ジュリー=沢田研二のバンドのドラマーでもある。
そう、我らは、皆、初めから「エンケン虎の穴」とでもいうべき仲間だったのだ。
加えて、タイムスリップ時代からのベースのMARIRINE(周藤アキタカ改め)は、細野晴臣とジョン・ポール・ジョーンズを敬愛している。
これで決まった!
ところで、この年、佐野は松本隆氏と出会い、松本氏の音楽生活30周年を記念したLIVE「風街ミーティング」にゲスト出演している。(この模様は、NHKで何度か放送されている)
「風街ミーティング」では、大瀧詠一氏を除く、鈴木茂、細野晴臣の各氏も参加し、「はっぴいえんど」の曲も披露したが、何と、佐野は、ここで、「はっぴいえんど」の未発表曲(正確にはLIVEでは演奏していた)、「ちぎれ雲」を演奏するという、禁じ手を使っている。
当日のリハーサルで、それを観ていた鈴木茂氏とはこの日が初対面だった。
「よかったよ」の一言に、佐野は勇気を得た…。
これもまた、このアルバムに「ちぎれ雲」が収録されるいきさつの大きな要因である。
というより、「ちぎれ雲」をレコーディングしたいと思った佐野を後押ししたのが、バンド結成だと言っても良いだろう。
かつて、伊藤銀次氏がパーソナリティーを勤めていたラジオ番組に佐野がゲスト出演したのが縁で、銀次氏から手渡された「はっぴいえんど」の秘蔵LIVEテープ。
あの日、伊藤銀次氏が佐野にテープを渡さなければ、このアルバムは成立しなかったかもしれない。
2000年暮れ、細野、鈴木、林立夫の3氏によって「TIN PAN」が25年ぶりに邂逅し、アルバムリリースされた。
NHKホールのLIVEの打ち上げに招かれた佐野が、鈴木茂氏と飲みながら談笑していると、鈴木氏から思いもかけない言葉が出た。
「一緒にレコーディングしようよ」
茂氏にギターを弾いてもらうのは至難の技…との噂も聞こえてくるなか、この期を逃すまいと、佐野は間髪置かずに茂氏に電話し、バンドメンバーと共にスタジオに入ったという。

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★左よりベースのMARIRINE、佐野、ドラムのGRACE、ギターのEBBY。
とにかくバンドの音を出したいと、タイムスリップ時代の佐野の曲もセルフカバーしつつ、録り進められたレコーディングの、全てはそこから始まったようである。
そうして始められた作業から、ここに残された8曲が、どのような成果を生んでいくのか、それは、未知数だ。
ところで、バンド結成し、1年が過ぎてもまだ、バンド名が決まらなかったようだ。
その間、エンケンにも、バンド名のアイデアを何十も提出してもらったが、なかなか決まらなかったらしい。
最後の決め手は、なんのことはない、灯台下暗し。
エンケンの普及の名曲「カレーライス」は、佐野が高校時代によく唄っていたという。
その「カレーライス」から直接採ったわけではないようだが、バンド名は温故知新の精神の象徴なのか、レトロな呼び方、「ライスカレー」と命名された。
遠藤賢司からその名を授かったとも聞くが、だとすれば、逆転の構図から、遠藤賢司をひっくり返せ…の意味でもあるのだろうか?
いずれにせよ、対峙し続けねばならぬ大きな富士の山…FUJI ROCK…であることに違いはなさそうだ。
あらゆるスパイスの混ざったカレーが、お皿に盛られたご飯の上にかけられている。
「佐野史郎とライスカレー」
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2001年夏
山猫軒亭主


佐野史郎とライスカレー Shiro Sano & the Rice Curry
1. あわせ鏡 詞、曲・佐野史郎
2. ちぎれ雲 詞 松本隆 曲 鈴木茂
3. 古い本 詞、曲・佐野史郎
4. 雷の好きな女 詞、曲・佐野史郎
5. いつかねむるひまで 詞、曲・佐野史郎
6. 花の頃から 詞、曲・佐野史郎
7. しらじら 詞、曲・佐野史郎
8. セントラルアパート 詞、曲・佐野史郎

〈メンバー〉
佐野 史郎/EG,AG,Vo
EBBY☆/EG,AG,Org,Cho
MARIRINE/ Ba
GRACE/ Dr,Per,Cho
〈ゲスト・ミュージシャン〉
鈴木 茂/EG(ちぎれ雲)
石川 真希/Pf (セントラルアパート)

〈レコーディング・データ〉
レコーディング&ミキシングスタジオ/GOK SOUND
レコーディング&ミキシングエンジニア/近藤祥昭
サウンド・エフェクト・レコーディング/嶋岡智子
レコーディング・スケジュール/2001/1/18,3/16~18,6/25~27
ミキシング・スケジュール/2001/7/2,3,18

〈宣材スチール〉
池水カナエ

〈プロデュース〉
佐野史郎とライスカレー

お問い合わせ:ウォナビーズ/03-5420-3556
橘井堂(キッセイドウ)/03-3796-1933
shirosano@kisseido.co.jp

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