橘井堂 佐野
2001年5月30日

南大東島紀行…「ゴジラのいる島」取材旅行3
4月12日(木)/Part2

佐野◆「ホテル吉里」に秋篠宮殿下と 紀子様の色紙があったのには驚いたね。開墾100年を記念していらしてたらしい。紀子様のお父様が植物学者で、南大東島独自の植物生態系を研究なさっていたらしいんだけど、そのご縁でお二人もいらしたと…。皇室の人たちは秒単位で動くらしいんだけど、ホテルの社長がエレべーター係りで、そのエレベーターの中でサインを求めたら書いてくれたんだって。珍しいよね。(笑)社長おそるべしだよ。
南大東島にはホテルが一つしかなくて、ここのテレビはサムソンかフィリップスかどこかのものだったから、それが何か外国っぽかったな。一泊二食付きで5000〜7000円ぐらいだから、行くのには飛行機代がかかるけど、滞在するのにはそれほどかからないと思うよ。
ホテルの向かいにある大東ソバは、沖縄本島のソーキそばや、八重山そばともちょっと違っていて、麺も太め。海水が混ざっているらしく、コシがあって美味しかったな。
それから自転車を借りて、島一周20キロだから廻ってみようと思ったんだけど、けっこう起伏があってさすがに全部は廻りきらなかった。観たことがない植物がいろいろ目に付いたね。南大東島では交番やお巡りさんを見なかったな。いるにはいるらしいんだけど……。信号機も勉強のために小中学校の前に一機だけあった。

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★星野洞の内部。
―――それは島根県の隠岐島と同じだね。地図を見ると、鍾乳洞まではけっこう近かったんじゃない。

佐野◆そうそう、星野洞は是非とも行きたかったんだよね。「ゴジラのいる島」で鍾乳洞の場面を書かなければならなくて、そのために取材を出来る場所を探してて、ネットで南大東島に当たりをつけていたんだよ。
南大東島は琉球からはウフアガリジマ(東の方の大きい島という意味)と呼ばれていて、絶海の孤島のように神格化されて崇拝されていたし、実際無人島だったから、ガラパゴスのように珍しい植物や動物が守られてきたんだろうな。

―――そこから開拓しはじめて、100年経って今の島民は1500人になったと……。

佐野◆一時は4,000人いたらしい。サトウキビの栽培と精糖工場での労働力を確保するため、台湾や韓国からも島にやってきていたんだけど、国交の問題や、機械化が進んで、現在に落ち着いたみたい。今や200海里の拠点として重要な島らしくて、それで開発をしようとしているようだよ。海水を真水に変える装置を使ってるんだよね。電気はどうなってるのか分からないけど、風車もあったな。
星野洞はサトウキビ畑に入り口があって斜めに入っていくんだけど、「ふるさと創世」の一億円で作ったらしい。

―――役に立たない建物を建てるより、なかなかいい使い方だったかも。

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★星野洞の内部。
佐野◆中はヌメヌメして黴びた匂いもして、いい感じだった。ピチャピチャしてて。一人だったから、だいぶ怖かった。(笑)そしたら、あとから誰かが入ってきたんだ。コツン、コツンって、足音が鍾乳洞に響くんだ。いっしょの飛行機で島に着いた青年だったんだけど、行く先々の観光スポットで必ず出くわした。
彼は車だったけど。彼のおじいちゃんが南大東島の出身で、子供の頃から、さんざん良い島だって話を聞かされてたんだけど、「うるせえジジイだなぁ」くらいにしか思ってなかったんだって。でも、そのおじいちゃんが死んじゃって、生きてるうちに一緒に来るべきだったって嘆いてた。じいちゃんの島を見ておきたかったんだって。センチメンタルジャーニーだな。俺も父を亡くしたばかりだからもらい泣きしそうにな ったよ。遥かなる島は、確かに霊場でもあるわけだから、これまた呼ばれたかな?
そういや、そこから近くの大東神社に行ったんだけど、天照大神が祀られていて、まさかここにきてまた出雲に出会うとはな……という感じだよ。(笑)だけど、狛犬がシーサーみたいだし、すごく変わってる。普通の神社の趣とは違うな! 外国人が見た日本みたいなんだよね。ガジュマルの木があるというのが何か似合わないんだろうな。

―――天照大神は出雲から関東を回って八丈島経由でたどり着いたのかな? 海流としては出雲の方に流れてはいるんだけどね。

佐野◆実はアイルランドのモハーの断崖にある洞窟と、出雲の加賀ノ潜戸や七つ穴などと、沖縄の伊江島の洞窟を関連づけて書いた人がいるんだよ。
最近出たばかりの本で、「ケルトと日本」(角川書店)……鎌田東二さんと鶴岡真弓さんが共編なさっていて、面白いよ。小説の参考に随分なった。

―――どういった関連なのか分からないけれども、それはすごい。

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★アイルランドを思わせる南大東島の海岸。
佐野◆アイルランドも行ったばかりだし、オカルトみたいじゃない。小泉八雲みたいだよね。どっぷり不思議に浸れば、明らかに誰かに導かれてるよね。(笑)なんで、この島にいるんだろうって思ったね。出雲地方にも大東ってあるしね。
それで、結局自転車では一周するのはさすがに大変で、半ばぐらいでホテルに戻ったんだ。で、夕食を食堂で食べつつ、さっき星野洞でいっしょになったお兄さんと話していたら、ホテルの社長が来て、いろいろ話をしているうちに、島を案内してくれることになって大助かり。
ダイビングや釣りのスポットがいっぱいあると教えてくれた。
あと、社長が経営している精糖工場を見学させてくれたりね。
それから飲みに行こうということになって、スナックに行って御馳走になっちゃった。そこのママさんによると島にはレインボーストーンという貴石があって、すごくパワーがあるらしい。その石を持つと幸せになると言われているんだけれども、島から持ち出すとそのパワーに負けて不幸な目にあうらしいんだ。巡り巡って必ず、何故かしらその石はこの島に戻ってくるらしいんだな。みんな事故に遭ったりするらしいんだよ。「佐野さん、持っていく?」と聞かれたけど、さすがにビビって断わったね。(笑)でもこれは、小説に使える話だな。(笑)

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